はじめに
今回は、私がシンガポールの友人にインタビューした内容をもとに、シンガポールの水供給の歴史、現状、そして未来への挑戦についてお話しします。
シンガポールは、独自の淡水資源をほとんど持たない都市国家として、水の安定供給を確保するために数十年にわたり様々な対策を講じてきました。その過程で、シンガポールは水の持続可能な管理において世界の先進事例となり、限られた資源の中で効率的な供給を実現するモデルを構築しました。
水輸入に依存していた時代
シンガポールは1960年代の創立期から、水の確保を大きな課題としていました。独自の湖や大規模な河川を持たないため、マレーシアからの水輸入に依存する形で水の供給を確保していました。特に1962年に締結された水協定は、シンガポールにとって不可欠なものでした。この協定により、次の2つのルートでの水供給が保証されました。1. テブラウ川とスクダイ川からの水輸入(2011年期限)2. ジョホール川からの水輸入(2061年期限)
しかし、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、シンガポール政府は水資源の限界と輸入依存のリスクを認識し、国内での水供給能力の強化を進めることを決定しました。2011年には第一次水協定が失効し、シンガポールはジョホール州政府にクイン・プラル・アン・スクダイ水道施設およびポンティアンとテブラウのポンプ施設を譲渡しました。この時点で、シンガポールは水輸入依存からの脱却を本格化させる必要に迫られていました。
水の自給自足を目指す取り組み
現在、シンガポールの水の約40〜50%は依然としてマレーシアから輸入されています。しかし、政府は2061年までに水の完全自給自足を目指し、以下の「四大国家水戦略(Four National Taps)」を中心に、水供給の多角化を推進しています。
1. 雨水の収集(Rainwater Catchment)
シンガポールは、都市部に多くの排水路や運河を設置し、雨水を効率的に集めて貯水池に蓄えるシステムを構築しています。2011年以降、マリーナ貯水池、プンゴル貯水池、セラングーン貯水池の完成により、水の集水能力は向上し、国土の2/3を水源地として活用できるようになりました。現在、雨水は全体の約20%を供給しています。
2. リサイクル水(NEWater)
NEWaterは、使用済みの水を高度な膜処理技術と紫外線殺菌を用いて浄化し、新たな飲料水として再利用する技術です。現在、NEWaterはシンガポールの水供給の約30%を占めており、特に産業用途での使用が増えています。2030年までにNEWaterの比率をさらに拡大し、2060年には水供給の50%をNEWaterで賄うことを目標としています。
3. 海水淡水化(Desalination)
シンガポールは2005年に国内初の海水淡水化プラント「SingSpring」を設立し、その後も設備の拡張を続けています。現在、国内には5つの淡水化施設が稼働しており、水供給の約10%を担っています。最新の施設である「ジュロン島淡水化プラント」は、従来の施設よりも5%のエネルギー効率を向上させるなど、技術革新も進んでいます。
4. マレーシアからの輸入水
現時点でシンガポールの水供給の約40〜50%を占める輸入水ですが、2061年以降の契約更新は未定です。シンガポール政府は、NEWaterと淡水化技術の向上により、輸入依存を完全に解消することを目指しています。
シンガポールの水管理の特徴
シンガポールの水管理は「閉鎖型水循環システム(Closed Water Loop)」と呼ばれる高度な管理モデルを採用しています。このモデルでは、すべての水を最大限に活用することが原則となっており、「あらゆる水を集め、繰り返し再利用し、海水淡水化によって補完する」という3つの戦略が組み込まれています。
また、政府は水資源管理に関する教育活動も積極的に推進しており、すべての人に1人1日平均150リットルの水の使用を制限するよう奨励する「Make Every Drop Count」キャンペーンなどを通じて、個人や企業に対して水の節約を促す取り組みを行っています。学校教育においても、水資源の大切さを学ぶカリキュラムが導入されており、次世代の水管理リーダーを育成することにも注力しています。
未来の課題と展望
シンガポールの水管理は世界的に高く評価されていますが、いくつかの課題も残されています。
- 2061年以降の水供給:マレーシアとの水協定終了後、シンガポールが完全に自給自足できるかが鍵となります。
- 気候変動の影響:極端に暑い日が頻繁にあり、降雨量も増加し、降水パターンの変化などの関係で、洪水や干ばつが起こる可能性があります。現在はそれに対する耐性を含む水資源の安全性を試験中。
- 土地の制約:既存の水供給システムは水消費量の需要増加に伴い、すでに土地面積の2/3を占めているので、さらなる貯水池やインフラを整備するにはスペースの問題が常に課題となります。
これらの課題に対応するため、シンガポールは地下貯水施設の建設や、よりエネルギー効率の高い淡水化技術の研究開発を進めています。
日本とシンガポール
シンガポールの水管理の歴史は、限られた資源を最大限に活用し、自給自足を目指す国家戦略の成功例だと思います。シンガポールは日本と同じ島国ですが、水資源は豊富ではありません。 そのため、NEWaterの拡充や淡水化技術の進歩によって水の完全自給自足を目指しています。
水資源の持続可能な管理は、日本を含む多くの国々にとってもこれからの重要な課題です。日本では現在、水資源の豊富さを過信している傾向があると感じます。なので、これからの日本は長期的な視点で水管理の効率化を進めることが求められるでしょう。そのため、シンガポールの事例は、日本にとって参考になると私は考えます。
みずのみずとシンガポール空港
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