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幻のソムリエが語る「水と食材の不思議な共鳴」

料理に使う水について、皆さんはどれくらい意識していますか?

飲み水としての「美味しさ」ではなく、食材の香りや旨味をどう引き出すかという視点で見たとき、水の持つ役割は驚くほど大きいです。私はこのことを、幻のソムリエ・吉田岳史さんとの対話を通じて、深く実感するようになりました。

「白い要素」を持つ水

吉田さんは、「水にはそれぞれ要素がある」と語ります。
そしてそれを「白い」「青い」といった感覚的な言葉でとらえていたことが印象的でした。なかでも、“みずのみず”の水には「チョークのような白い要素」があると言います。それは色ではなく、感覚としての“白さ”です。吉田さんは、その白さを持つ水と、同じく“白い要素”をもつ食材や飲み物を組み合わせることで、お互いの魅力が共鳴し、ぐっと引き立つと語っていました。白い要素の食材はどんなものがあるのか尋ねたところ、ホースラディッシュ(山わさび)やコリアンダーの種、さらに※1石灰質土壌で作られるワインが挙げられました。

※1. 石灰質土壌:ジュラ紀中期や三畳紀ムッシェルカルクの石灰質土壌。香りは控えめながら、おおらかでどっしりとしたワインになる。

だしとしての“みずのみず”

実際に吉田さんが“みずのみず”でマグロ節の出汁をとったところ、いつもとはまるで違う仕上がりになったそうです。
「驚くほど繊細で、上品。まるでマグロ節が水に溶け込むのではなく、水がマグロ節の“奥の奥”をそっとすくい上げるようだった」と語ってくれました。

ー吉田さんからのレポートより一部抜粋ー

1、昆布の出汁は羅臼昆布よりも、利尻昆布の方が透明感がある美味しさがあるので、利尻昆布がオススメ。 

2、”みずのみず”と“伊豆マグロ節”はどちらもしっとり滑らかなので、相性が良いです。特に、透明感のあるパキっとした品の良さが水にあるので、水彩画のように美しい味となります。

3、今回は出汁の中に、温度が低い状態からカブを入れて、ジワジワとゆっくり弱火で30分置きました。そうすることによって、カブの自然な旨みが湧いて、凄まじく美味しい出汁ができました(野菜も出汁の素材です)。カブは、皮を剥かないで、乱切りにしています。皮から美味しさが出るので、私は皮はだいたいそのまま味噌汁に入れます。 

4、カブを入れてから、強火にしてしまうとカブのエグミを引き出してしまうので、あくまでもゆっくり火を入れることが大事です。 

5、濃い味噌で作ると、マグロ節と”みずのみず”の繊細さを殺してしまうので、味噌は白味噌系のものを入れることで、透明感のある味わいになります。

6、結論は、品の良い上質なマグロ節なので、“みずのみず”はとてもふさわしいです。高級和食に使うべきだと思います。

“みずのみず”を使ったマグロ節味噌汁

“みずのみず”の特徴は、その丸くて柔らかな口当たりにある。吉田さんはそれを「白い霧のようだ」と表現していたが、その言葉は非常にしっくりくる。
水が素材を押し出すのではなく、ふわりと包み込んで、旨味や香りを内側からじんわり引き出してくれるような感覚。私はこのニュアンスに、どこか日本的な美意識を感じる。

他の水ではどうなる?映し出す水と凸凹の水

一方で、水道水など他の水ではどうなるのでしょうか。
吉田さんによれば、「水道水はちょっと凸凹していて、滑らかさに欠ける」と言います。成分の干渉や塩素のニュアンスが影響して、素材と水がなめらかに調和しない。出汁にしたときに、ほんのわずかに雑味のようなものが立ち上がってくると言っていました。

私たちの日常では気にならないかもしれませんが、和食のような香りや食感の“静けさ”を求める料理においては、その差が意外と大きいのではないでしょうか。

また、日本の一般的な飲料水(軟水)については、素材を変化させたり引き立てたりするのではなく、まるで鏡のようにそのまま映し出しているといいます。たとえばお茶を淹れるとき、茶葉の苦味も渋味も、ありのままに表現されている。だからこそ「素材そのものを真っ直ぐ味わいたいとき」には良いけれど、組み合わせや調和によって引き出される素材の風味・奥行きを楽しむには、少し物足りなさもあるのかもしれないとも語っていました。

私なりの考察

私はこの「白い要素」という吉田さんの表現がとても気になり、少し成分的な観点から考えてみました。
“みずのみず”の水には、バナジウムが比較的豊富に含まれています。バナジウムは、特に富士山麓の地下水に含まれる成分で、魚介や酒に含まれるアミノ酸や香り成分と反応しやすいと言われています。

つまり、マグロ節のような素材と“共鳴”するのは、単なる偶然ではなく、成分同士の相性があるのではないでしょうか。

もちろん、味や香りの印象は感覚的なものであり、科学的に断定できることばかりではないと思います。それでも、そうした感覚と成分を少しずつ重ねながら理解を深めていくことは、水の面白さのひとつだと私は思います。

水は「演出者」であり「翻訳者」でもある

水は、見えないものを引き出す存在です。
そのまろやかさで「包み込む」水があれば、素材をそのまま「映し出す」水もあります。
どちらが優れているということではなく、料理や飲み物とどんな関係性を築きたいかによって、水の選び方も変わってきます。

私はこれからも、水を“飲み物”としてだけでなく、“表現のツール”としてとらえていきたいと思います。水と食材の中で生まれる微細な違いや気づきを意識し、感じることが水の面白さなのではないでしょうか。

次回は、幻のソムリエ・吉田岳史さんが語ってくれた、硬水と軟水の硬さと丸さが描く国の文化の違いについてご紹介します。

どうぞお楽しみに。

中田 皓太

中田 皓太

立命館アジア太平洋大学 国際経営学部に在学中。中国と日本での生活を通じて、水に対する意識の違いを実感し、水の価値に関心を持つ。 父の所有する水源地に海外資本による買収の動きがあったことをきっかけに、日本の水資源の重要性に目を向ける。 現在はみずのみず株式会社にてインターンシップ生として活動中。コラム執筆を通じて、日本の水資源の大切さを発信している。

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