~水の違いを知ると、旅がもっと面白くなる~
水はどこで飲んでも同じように感じていませんか?
実は、地域によって「味」や「成分」が違うんです。
私がそれに気づいたのは、九州の大学に進学したときでした。大阪で暮らしていた頃は、岡山から届く軟水を飲んでいて、柔らかく、クセのない味でした。それに対して九州の水は、阿蘇からの硬水の天然水が主流でした。最初に飲んだ時は、少し喉に引っかかる感覚や味があると感じました。たった数百キロしか離れていないのに、水の感じがまるで違うことに驚きました。
なぜ水は地域で違うのか?
水の成分が地域によって異なるのは、水が流れる地質が大きく関係しています。雨が降り、大地に染み込み、地下を流れる過程で、水はさまざまなミネラル成分を溶かし込んでいきます。
例えば、石灰岩が多い地域では、カルシウムやマグネシウムといったミネラルが多く溶け込み、いわゆる硬水になるそうです。ヨーロッパの多くの国では硬水が一般的で、紅茶やコーヒーの味が変わると言われるのもこのためです。一方、日本の多くの地域は花崗岩が多い地質で、ミネラル分が比較的少なく、軟水が多いのが特徴です。私たちが普段飲み慣れているのは、この軟水であることが多いでしょう。
硬水と軟水、その違いは?
水の硬度は、主に水中に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量によって決まります。これらのイオンが多いほど硬度が高くなります。WHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドラインでは、水の硬度を以下のように分類しています。
- 軟水:硬度 0~60 mg/L
- 中程度の硬水:硬度 60~120 mg/L
- 硬水:硬度 120~180 mg/L
- 非常な硬水:硬度 180 mg/L以上
日本の水道水の平均硬度は約50〜80mg/Lとされており、多くが軟水に分類されます。しかし、地域によってはこの硬度が大きく異なります。
硬水は口に含むと、ずっしりとした重みや、わずかな苦味、あるいは独特のまろやかさを感じる人もいます。ミネラル補給に適していると言われることもありますが、お料理によっては素材の味を邪魔したり、石鹸の泡立ちを悪くしたりすることもあるそうです。一方軟水は、口当たりがまろやかで、すっきりと飲みやすいのが特徴です。日本の和食文化や、きめ細やかな泡立ちを重視する洗顔などにも適しているとされます。
日本各地の水の個性:データで見る味わいの違い
私が大阪で飲んでいた岡山の軟水と、九州地方で飲んだ少し硬水感のある水はデータからも裏付けられています。
岡山市の水道水の硬度はおおむね40〜50mg/L程度とされており、これは典型的な軟水です(岡山市水道局の公開データより)。一方、熊本県阿蘇地域は、その火山性の地質と豊富な地下水に恵まれています。例えば、南阿蘇村の有名な湧水群の硬度は、種類によって異なりますが、50mg/L台後半から100mg/Lを超えるものまで存在するそうで、特に特定の湧水では中程度の硬水に分類される硬度を示すものもあります(環境省「名水百選」選定地の水質データ、各自治体の水質情報などを参照)。
さらに、“みずのみず”が主に販売している静岡県の水も特徴的です。富士山をはじめとする豊かな山々から湧き出る水は、地域によって硬度が異なりますが、全体的には軟水傾向にあります。特に富士山の伏流水は、バナジウムなどの希少なミネラルを含むことで知られ、そのまろやかさから多くの人に愛されています。静岡市内の水道水も、おおむね40〜60mg/L程度の軟水が多く、口当たりの良さが特徴です(静岡市上下水道局の公開データより)。また、“みずのみず”で販売されている水は、バナジウムはもちろんミネラルも豊富に含まれている上に、硬度が36mg/Lの超軟水に分類されているんです。このような希少な水も場所によっては湧き出ていることもあります。このように、同じ日本国内でも、地質のわずかな違いが、水の味わい、水質を大きく変えることがわかります。
水を味わうことで、旅がもっと面白くなる
旅先で「その土地の水を味わう」という視点を持つと、日本を旅する楽しみがひとつ増えると思います。コンビニで売られているペットボトルの水でも良いですし、地域の水源から引かれた水道水、あるいはレストランで提供される水でも構いません。いつも飲んでいる水との違いに気づくことで、その地域の自然環境や食文化、さらには人々の暮らしへの理解が深まるはずです。水を味わうことで、旅がもっと面白くなると思います。