アメリカの水道水は飲めない、と思っている人は多いかもしれません。でも実は、飲めます。
ただし「飲める」と「おいしい」は、まったく別の話です。
日本では蛇口から出る水をそのまま飲む人も多いですが、アメリカの水道水には独特の風味があり、安全ではあるものの慣れていないと違和感を感じることがあります。その原因は、「塩素の量」と「水の硬さ」にあります。
この記事では、アメリカの水道水の実態を、アクアソムリエの視点からデータとともに整理します。
アメリカの水はなぜ「飲めない」と思われているのか
多くの日本人がアメリカの水道水に違和感を覚える理由は、安全性ではなく「味と感覚」にあると思います。
アメリカの水道水は塩素の味が強いです。水道水の殺菌に使われる塩素は日本でも使用されていますが、アメリカは国土が広く配管がとても長いため、水が各家庭に届くまでに塩素を多く添加する必要があります。その結果、プールのような独特の味が残ることがあります。
次にアメリカの水道水の硬度は高く、USGS(米国地質調査所)の分類によると、硬度180mg/L以上は「非常に硬い水」に分類されます。日本の水道水の平均硬度は約50mg/Lで、ほぼ軟水です。一方、アメリカでは特に中西部・西部を中心に硬度200mg/Lを超える地域が広く分布しています。
硬水に慣れていない日本人は、飲んだ後に胃腸の重さや違和感を覚えることがあります。アメリカでなんとなく体調が悪いという感覚の一因は、この急激な水質の変化にあると考えられています。
アメリカの水道水が「飲める」根拠
アメリカの水道水は、法律によって安全基準が定められています。
1974年に制定された「安全な飲料水法(Safe Drinking Water Act)」に基づき、EPA(米国環境保護庁)は90種類以上の汚染物質に対して法的な基準値を設定しています。EPAの公式データによると、コミュニティ水道を利用する人口の92%以上が、常に全ての安全基準を満たす水の供給を受けているとされています。
参考として、日本の水道水は現在51項目の水質基準が定められており、規制の対象となる物質の種類という観点では、アメリカの方が広範囲をカバーしていると言えます。どちらが「より安全か」というよりも、それぞれの国が独自のリスク評価に基づいて基準を設けているというのが正確な理解です。
つまり、水道水は「安全基準は満たしているが、口に合わないことがある」というのが実態です。
安全なのに、なぜアメリカ人はボトルウォーターを手放さないのか
法律上は安全なのに、アメリカ人がこれほどボトルウォーターを選ぶのはなぜでしょうか。
国際ボトルウォーター協会(IBWA)のデータによると、アメリカは世界最大のボトルウォーター消費国です。2016年にはボトルウォーターが炭酸飲料を抜き、アメリカで最も売れる飲料カテゴリーになりました。
この背景の一つには、2014年〜2016年にミシガン州フリント市で起きた水道水の鉛汚染事件があります。財政難から水源を切り替えた結果、古い配管から鉛が溶け出し、約10万人の市民が影響を受けました。「法的に安全」という認定が必ずしも現実の安全を保証しないという事実がアメリカ社会に広く知られることになり、以降「自分の飲む水は自分で選ぶ」という意識がさらに強まったと分析されています。
アメリカの水道水が教えてくれること
アメリカ人がボトルウォーターを選ぶのは、水道水が「危険だから」ではありません。安全な水がある上で、それでも「自分に合った水を選ぶ」という意識があるからです。
水に対する問いの立て方が、日本とアメリカでは根本的に違います。飲めるかどうかではなく「何を飲むか」。その意識の差が、フリント市の危機以降さらに鮮明になっています。
次回は「アメリカの水は本当に硬い?」。硬水が肌・髪・胃腸に与える具体的な影響を、データとともに掘り下げます。