飲み水、生活水、農業、そして産業用水。こうした水の多くは、山や森林がつくり出しています。
今、その山や森林が静かに、そして確実に弱ってきていることをご存じでしょうか?
背景にあるのは、「林業の衰退」と「急速な都市開発」という二つの大きな要因。そしてそれは、水資源にも確実に影響を及ぼし始めています。
放置される人工林と、林業の衰退
戦後の日本では、木材需要の高まりに応じて、スギやヒノキといった成長が早く商品価値の高い針葉樹の人工林が全国で大量に植えられました。
本来であれば適切な間伐や植え替えが行われることで健全な森が保たれるはずでしたが、やがて安価な外国産木材の流入により、国産材の価格は急落。林業の採算は取れなくなり、多くの山が手入れされないまま放置されてしまったのです。
その結果、森林は光が届かず下草や背の低い木などが育たず、土壌は痩せ、水を保持する力を失っています。ブナのような広葉樹や灌木といった水を蓄える力を持つ樹種が衰退することで、森の保水力は大きく低下していくと考えられます。
資料1にあるように林業の現場では、作業の高コスト化、後継者不足、所有者不明の山林の増加といった問題も深刻です。日本の森林の約7割は民有林であり、その多くが民間の努力に委ねられているのが事実です。森を守り、水を育てるためには、林業を再び持続可能な産業として育て直すことが重要だと考えます。
資料1
資料2
出典元:林野庁 URL:https://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/doukou/index.html?utm_source=chatgpt.com
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/29hakusyo_h/all/chap1_1_2.html
開発・都市化が“森そのもの”を奪っていた
一方、都市開発や再開発は、もっと直接的に森林を破壊します。
住宅地の拡大、道路や商業施設の建設、さらには近年増加する太陽光発電施設(メガソーラー)の開発によって、山や人工林だけでなく、里山や自然林までもが次々に姿を消しています。
こうした開発は短期的な経済性を優先する傾向が強く、生態系の分断、希少種の消失、CO₂吸収力の低下、水資源の破壊といった代償を社会が支払うことになります。
水を蓄える“容器”そのものである森林が削られていくということは、水資源の基盤そのものが壊されていることと同義なのです。
森が衰えれば、水も汚れ、災害も増える
森林は雨を受け止め土に蓄え、その水をゆっくりと浸透させて地下水から湧き水へと還元します。そこにブナなどの広葉樹や下草が関与することで、水は清浄化され、洪水は緩和され、雨の少ない時期でも供給が安定するという持続的なサイクルが維持されてきました。
しかし、森林が劣化すると、
- 表土が流出し水の保持力が低下
- 雨水が短時間で河川に集まり洪水を引き起こす
- 湧き水が減少し雨の少ない時期の水不足に
- 流出した土壌により水質が悪化し、飲料水の安全性も脅かされる
という悪循環に陥ります。自然(森林・土壌・水)は循環で成立しており、一つの破綻が全体に影響を与えるのです。
最後に
森林を守ることは、単に木を残すということではありません。水の循環を支え、大気を浄化し、生物多様性を維持するなど、地球環境全体を支える基盤的な役割を果たしています。森林の健全な維持は、気候変動の緩和や自然災害の防止にもつながります。
だからこそ、私たちは森林の価値を正しく理解し、長期的な視点で守っていく必要があります。